味の記憶
スペシャルなご飯
食べ物を食べている時、昔の記憶が蘇った経験ありませんか?
正確には、味覚によって記憶が蘇るのではなく、食べ物の香りを含んだ空気が鼻に移動することによって風味となり、それに対し脳が反応することでおこります。
それは嗅覚が受け取った信号を、感情や記憶を処理する部分に接続されるためと言われています。
今回は、海外で思いがけず母の味に再会し、懐かしくなったお話です。
私は赤ちゃんの頃、乳製品のアレルギーがあった為、アレルギー専用の粉ミルクを飲んでいたそうです。
今と比べ種類もなく、値段も高額だったようで、母は「ミルク代すごかったのよー」なんて笑って話したりします。
乳製品のアレルギーに加え、喘息もあったため、母はよく私専用の「アヒルのスープ(汁)」を作っていました。
私の住んでいた地域では、アヒルスープ(汁)は喘息や風邪に良いとされていて、薬膳料理のような存在でした。
毎日飲めるようにと、出来上がったスープの熱を取り、製氷機に入れ固めて保存していました。
それを寝る前に2個湯呑みに入れ、電子レンジで温めてから飲むのが日課になっていました。
このアヒルスープ、臭み消しはしていましたが、アヒルの独特のクセがあり、幼かった私はそれが嫌いでしかたありませんでした。
確か「飲みたくない」と駄々をこねて困らせていたと思います。
それから10数年後、北京へ旅行に行った時のことです。
北京ダックのお店でスープが出てきたのですが、中国語がわからないので、その時は何のスープか知りませんでした。
一口飲むと、母が作っていたあのアヒルスープの味でした。
飲んだ瞬間、幼かった時の記憶が一気に蘇りました。
母はフルタイムで仕事をしつつ、帰宅後深夜までお鍋をコトコトさせて、私の“特別メニュー“のアヒルスープを作っていました。
夜中に喘息発作が起きた時も、疲れているはずなのに、いつも側にいてくれたことや、深夜の病院の待合室でタクシーを待っていたことなど、次々と思い出が溢れてきました。
それから数年後、子供が産まれ食物アレルギーと分かり、除去食を作っていてふと思い出したあの“特別メニュー“の記憶。
この子が元気に過ごせるように、美味しく食べられるようにと、きっと母も想っていたのだろうと。
食物アレルギーで、周りとは同じものが食べられないかもしれないけれど、みんなと違うと思うのではなく、この子だけのスペシャルなご飯を作っているんだ、という気持ちになりました。
いつか子供達が大きくなった時に、除去食や代替食の“特別メニュー“を思い出し、懐かしく思う日が来るといいな…。
管理栄養士「渡邊こずえ」
食物アレルギーっ子ママで、管理栄養士。
管理栄養士の免許取得後、食品会社・病院・エステティシャンや飲食店など様々な仕事を経験。
現在は、3人の子育てをしながら自身の体験や失敗をもとにイラストやコラムを書いていただいています。
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